注目の研究者
◆福岡 泰宏(ふくおか やすひろ)
SVBL非常勤研究員
電気通信大学 木村研究室
CPGを組み込んだ
不整地歩行四足ロボット
「鉄犬」

   
 

○ 電気通信大学・・・・木村研究室(福岡 泰宏研究員)にお伺いしました。

 
1: 研究を始めたきっかけ

私は「ガンダム・パトレイバー」世代です。ですから、私が小さい頃からとりわけ興味を抱いていたのは二足歩行のロボットで、大きくなったら人型ロボットを作ろう漠然と考えていました。
私が電気通信大学に入学した1998年、木村研究室では横方向には倒れないように拘束し、前後方向だけに移動する四足ロボットPatrushが主な研究テーマになっていました。私は、当初二足歩行の研究をしたくて他の大学の研究室から現在の研究室へ移籍してきたのですが、他の一般的なロボットに比べて遥かに動きの速いPatrush(パトラッシュ)を見て感心しました。今では二足歩行よりも運動能力の高い四足動物の脚移動がカッコいいと思っているので満足しています。

2 : 四足ロボット「鉄犬」について
2-1 「鉄犬」は、不整地歩行四足ロボット

鉄犬シリーズは私が2000年に開始した不整地歩行四足ロボットです。「鉄犬」が一般的な歩行ロボットと比べて優れている点は2つあります。ひとつめは、「動きがなめらかで速い」ということ。これは、その方が見ためにカッコいいので絶対に譲れません。そしてもうひとつの優れている点は、「多少の段差や坂などならば、不整地を認識しなくともつまずきながらでも転倒しないで歩くことができる」ということでしょうか。もちろん、平地なら走ることもできます。

2-2 「鉄犬」が他の歩行ロボットと比べて優れている点
製作:東京精機株式会社
他の歩行ロボットと比べて優れている点について補足的に説明しますと、ふつう、ロボット工学では、まず、難しい理論や式を好んで使って目的遂行のために最適に運動を行えるような行動を生成します。そして、実験時はそうやって生成された行動に従って運動させるわけです。しかし実際のロボットの運動は外界からの様々な影響によって“ズレ”が生じてきます。もちろん、そのズレが少し大きくなるとロボットは適応できません。
なぜでしょう? それは、“ズレ”てしまった時の最適な行動を設定してないからです。もちろんすべての状況を設定していればいいのですが、起こりうるあらゆる状況を想定しての行動を設定するというのは不可能です。
ふつう研究者は、実験室以外の何が起こるかわからない屋外でロボットを動かそうなんてことを考えません。しかし、「鉄犬」は屋外での歩行・走行も視野に入れているので、この“ズレ”(外乱)に対して融通のきかない従来のシステムはかなり問題になります。
2-3 CPG(Central Pattern Generator)

そこで、我々はちょっとした“ズレ”なら自律的に補正してくれるような歩行リズム生成器システムを「鉄犬」に組み込みました。これは、生物の脊髄に存在するCPG(Central Pattern Generator)と呼ばれるリズム生成器の数式モデルです。CPGは一つの安定状態を持っていて、それから多少“ズレ”たとしてもしばらくすると勝手に元の安定状態に戻るという自己安定化能力を持っています。そのため、まっ平らな整地をきれいに歩くという行動を一つの安定状態としてプログラムしておけば、ちょっとした段差や坂などの予測していなかった不整地を歩行している時に多少の”ズレ”を生じてもしばらくフラフラしているうちにまた安定した歩行状態に勝手に戻ってくれるわけです。
これは従来のシステムでは不可能でした(そういう不整地に適応した歩行ロボットが存在していなかったのであえて不可能と言わせてもらいます)。このように、「鉄犬」のシステムであれば、外乱の多い屋外での歩行・走行も数年で可能になると考えています。

3: 具体的なCPGの応用技術はなに?

3-1 リズム運動と引き込み

具体的にといわれてもすぐに思い浮かびませんが、歩行に限らずリズム運動であれば何でも適用できるはずです。「鉄犬」は坂を重々しく登っていて、足を振る周波数が小さくなった時、システムの核である CPGの周波数が自律的にそれに同期します。そのため、全体としてゆっくりした周波数で歩行を滑らかに行うことができます。生物の歩行も実際にはそんな感じでしょう。実社会においてもCPGが関与していると考えられる現象は見られます。例えば、前を歩いている人の歩行リズムに自分のリズムが引き込まれてしまうとか、個々の周波数で明滅しているホタルが集団になると振動の周波数だけでなく位相も揃えて明滅するなどです。ゴルフで「チャー・シュー・メン」と唱えながらボールを打つとリズムが良くなるというのも、脳内で作った強制リズムにCPGが引き込まれているのかも知れませんね。

3-2 お手玉や太鼓を叩くロボット
いずれにしても、具体的なCPGの応用技術を考える時には、「鉄犬」の例のように「複数の周波数の異なるリズムをすべて一つのリズムにできる」というのがキーワードになると思います。そういう視点で考えて見るとロボットはCPGの応用分野の一つにすぎないのですが、その時メリットとなるのは、やはり外乱に強いということ。また、CPG固有のリズム周波数に近い周波数を持つ外部振動を引き込むと、CPG自身の周波数を変化させて外部振動に同期するという特性を持つことでしょうか。こういったCPGの特性を利用して、お手玉や太鼓を叩くロボットを実現している例もあります。

4: これからの夢 将来の夢

昔から脚式ロボットのことしか考えてなかったので、このまま脚式ロボットをやっていけたらと思っています。しかし、最近は魚や蛇なども含めて脚以外のロコモーションにも興味がわいてきました。 でも基本は脚です!当面は四脚ロボットをやっていくつもりです。
今は大学にいますが、将来的的には、ロコモーションをビジネスに結びつけたいと思っています。目立ちたがり屋な方なので、研究者というコアな集まりの中だけでなくビジネスの世界でも四脚ロボットといえば「福岡」と言われるようになりたいですね。
◇:ありがとうございました。
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